土地利用規制法の全面施行に当たっての声明
憲法に違反する悪法の廃止を求めるとともに、憲法に立脚し、
住民と自治体が力を合わせ、人権侵害をくい止めるため行動しよう
2022年9月21日 日本平和委員会
岸田政権は、9月16日、基地機能を守るとの名のもと米軍・自衛隊基地周辺や国境離島などの住民を監視する「土地利用規制法」の「基本方針」を閣議決定し、同法は20日に全面施行された。今後、住民が監視対象になる「注視区域」「特別注視区域」の第1次の候補地を「土地等利用状況審議会」に提示。地元自治体の意見を聴取した上で、年内の指定をめざし、さらに24年秋~25年秋頃をめどに、約600カ所以上の区域指定を完了させるとしている(読売新聞9月16日)。
「基本方針」については、国民の意見募集(パブリックコメント)が実施され、1198通2760件の意見が寄せられ、その多くは人権抑圧につながることへの懸念から、廃止と改善を求めるものだった。それらの意見は全く反映されず、全面施行が強行された。この手続き自身が、極めて不当である。
「基本方針」によれば、市民を監視の対象とする「注視区域」が、政府(内閣総理大臣)の恣意的判断で指定される危険がある。米軍・自衛隊施設、海上保安施設は、どんな施設にもあてはまるような漠然とした基準が示されているだけである。「生活関連施設」には、原子力関係施設と「自衛隊の施設が隣接し、かつ自衛隊も使用する」空港が指定された。原子力関係施設には「製錬施設、加工施設、発電用原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設及び管理施設」と広範な施設が対象とされている。「国境離島」では、領海警備などの活動拠点となる施設の周辺が「注視区域」になり、これらのおおむね周囲1kmが調査・監視対象とされる。
「基本方針」では、この区域指定に当たって、「あらかじめ周辺地方自治体の意見を聴取する」ことにはなった。しかし、私たちが強く求めてきた、調査・監視の直接の対象になる住民を対象にした説明会の実施、自治体からの「聴取」だけでなく「同意」を得るべきとの意見も拒否されている。
調査・監視・規制・処罰の対象となる「機能阻害行為」について「基本方針」は、「対象となる施設等の種類、機能等に応じて様々な態様が考えられ、また、技術の進歩等によって、その態様が複雑化・巧妙化することも考えられる」と、特定しない立場を改めて表明している。一応、「航空機の離着陸やレーダーの妨げとなる工作物の設置」とか「レーザー光等の光の照射」とか、「施設に物理的被害をもたらす物の投射」とか、「妨害電波の発射」とか、いくつかの「類型」をあげている。しかし「これらは例示であり、この類型に該当しない行為であっても、機能阻害行為として、勧告及び命令の対象となることはある」と、重ねて、「阻害行為」を特定しないことを強調しているのである。これは、法治国家の最低限の人権保障のルールである「罪刑法定主義」に反するものである。政府の恣意的判断で「阻害行為」の範囲が拡大され、中止命令に従わない者は、懲役2年以下、罰金200万円以下の罪に罰せられる危険がある。
さらに、この「阻害行為」のおそれの有無の調査を「基本方針」では、まず第1に、関係行政機関や地方自治体などに「公簿等」の情報の提供を求め、公開されたホームページの情報なども収集する場合があるとしている。「思想・信条などに係る情報を含め、その土地等の利用に関係しない情報を収集することはありません」(内閣府のパブコメへの回答)という保証はどこにもない。私たちはこの間の政府関係部局との交渉で、自治体の情報提供は義務ではなく、自治体に対応の裁量を認めるようにすべきこと。「個人情報の保護」の立場から、個人情報を提供する場合は当該個人の了承を得ることを原則とすることを求めてきた。ところが、内閣府の結論は、「情報の提供義務を課す…自治体が対象となる個人に知らせることは想定していない」(パブコメへの回答)という不当なものである。
しかも、こうした情報収集でも土地等の利用状況が明らかにならない場合は、「現地・現況調査」や「その他の関係者への報告の徴収」を行うとされており、その対象や内容に制限はない。その場合、「報告若しくは資料の提出をせず、…報告若しくは資料の提出について虚偽の報告をし…虚偽の資料を提出したときは、…30万円以下の罰金を科す」(27条)というのである。
さらに、「内閣府に、重要施設を所管する関係行政機関等、重要施設を運営する事業者、地域住民等から、土地等の利用状況に関し、現場の実態などに係る情報提供を受け付ける体制を整備する」(基本方針)と、「密告」を奨励・利用する体制を作ろうとしている。この中の「関係行政機関」の中には、公安警察のほか、反戦平和活動などを敵視する自衛隊の情報保全隊も入ってくることは明らかである。
このように、施行された土地利用規制法は、徹頭徹尾、憲法に保障された個人の尊厳、思想・信条・表現の自由などの基本的人権を脅かす危険なものである。私たちは引き続き、その廃止を求めていく決意を、ここに表明する。同時に、市民のたたかいで、「基本方針」に「思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限することのないよう留意する」「個人情報の保護に関する法律を遵守する」ことが記載されたことは重要である。この憲法の立場に依拠して、関係自治体と懇談し、市民と自治体が力を合わせて、政府の横暴を規制していく取り組みを強めることが求められている。