≪声明≫
自民党の「抑止力向上に関する提言」について
憲法の根幹を破壊する、「敵基地攻撃能力」保有の大軍拡をくい止めるため、国民的な大運動をまきおこそう
2020年8月5日 日本平和委員会
一、自民党は8月4日、敵基地攻撃=先制攻撃能力保有について早急な結論を求める提言をまとめ、安倍首相に提出した。これを受けて安倍首相は、「しっかり新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と明言し、同日午後、国家安全保障会議(NSC)を開催し、検討を開始した。9月末までに一定の方向性を出し、年末までに「国家安全保障戦略」「防衛計画大綱」を改定することをめざすと報じられている。
現在、新型コロナウイルス感染が拡大を続けているにもかかわらず、安倍政権は無策に終始し混乱を極めている。首相は6月18日以降、記者会見も開かず、衆参の閉会中審査にも出席せず、野党が憲法53条に基づき要求した臨時国会の早期開会にも応じず、逃げ回っている。その首相が国会にも諮らず、憲法を根本から蹂躙し、「専守防衛」の建前もかなぐり捨てる先制攻撃保有の軍拡方針に突き進もうとしているのである。このような議会制民主主義蹂躙のファッショ的姿勢は、断じて許されない。安倍首相は国会に出席し、この問題も含めて国民の疑問に答えるべきである。
一、提言では、国民世論の反発を考慮して「敵基地攻撃」という表現を避けながら、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要」と、日本が攻撃される前に、相手国の領域内のミサイル発射基地などを攻撃する能力=敵基地攻撃・先制攻撃能力を保有することを求めている。しかもそれは、「相手領域内」の「ミサイル等」として、ミサイル発射基地だけでなく、防空用レーダーや司令部など関連施設を攻撃することにも道を開く表現となっている。提言はこの能力を「憲法の範囲内」「国際法を遵守」「専守防衛の考え方の下」整備するなどと強調している。それは、これらを遵守することを求める国民世論を強く意識しているからである。しかし、その強調は逆に、これがそれをことごとく踏みにじる先制攻撃に道を開くものであることを浮き彫りにしている。
提言はまた、「攻撃的兵器を保有しない」方針を維持するともしている。しかし、現在の中期防衛力整備計画でも、これまで「攻撃的兵器」であり保有できないとしてきた、攻撃型空母や長距離巡航ミサイル、高速滑空弾などの保有・開発を推進している。この提言に沿って敵基地攻撃能力整備の方針が公然と掲げられるならば、さらに多数の長距離ミサイルや巡航ミサイル、偵察衛星や無人偵察機、電子戦機など「宇宙、サイバー、電磁波領域の能力強化」(提言)も含む、際限ない大軍拡に道を開くことは必至である。
なぜなら、敵基地攻撃とは、1カ所の発射基地を攻撃することに止まるものではなく、「防空用のレーダーや対空ミサイルを攻撃して無力化し、相手国の領空における制空権を一時的に確保した上で、(多数の)ミサイル発射能力を無力化し、さらなる攻撃を行う」能力(河野防衛大臣)を整備することに他ならないからである。つまり、敵国への全面的な先制攻撃の道である。
提言が「日米同盟全体の抑止力・対処力の向上につながるよう、米国との緊密な協議を行う」としているように、これは、アメリカの先制攻撃戦略の一翼を担う体制をつくるものに他ならない。それは、数兆円規模の新たな軍拡に道を開き、国民生活をさらに破壊することにつながる道である。
私たちは、憲法と平和、国民生活を守るために、この敵基地攻撃・先制攻撃能力保有の動きを阻止するための国民的運動をまきおこすことを呼びかけるものである。
一、提言ではこの他にも、▶弾道ミサイル対処に止まらず、巡航ミサイルや無人機などによる攻撃に対処するため、米国の「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」と連携し、数百基もの監視衛星を打ち上げる「低軌道衛星コンステレーション」などの検討を求める、▶地方自治体を動員してシェルター(地下避難施設)等の確保などミサイル攻撃に備えた「国民保護」と称する戦時体制づくりを進める、▶「拡大抑止の信頼性のさらなる強化」すなわち米軍の核攻撃態勢の強化など、おぞましい戦争態勢づくり、日米軍事同盟強化の方向が提起されている。
コロナ危機のなかで、1人1人の命と暮らしを守ることを最優先する政治、そのための国際協力が求められているときに、敵基地を全面攻撃するための「戦争する国づくり」・日米軍事同盟強化に熱中し、さらなる大軍拡をすすめようとするー—それは時代錯誤の暴挙と言わねばならない。これは、アメリカの核兵器にしがみつき、日米軍事同盟を強化し、周辺国との軍拡競争を激化させてきた道の結末というべきである。いまこそ、この悪循環を断ち切らねばならない。日米軍事同盟強化の路線を、憲法にもとづく平和外交の道へと大きく転換するときである。私たちはそのために全力を尽くす決意を、ここに表明するものである。