《声明》
防衛大学人権侵害裁判の福岡地裁不当判決を厳しく批判する
��019年10月4日 日本平和委員会
原告の元学生が、防衛大学校(防衛大)で上級生らに暴行やいじめを受け退学に追い込まれた責任は、国の同学生への安全配慮義務違反にあるとして損害賠償を求めた訴訟の福岡地裁判決が10月3日言い渡され、国の安全配慮義務を全面的に免罪する不当判決が出された(足立正佳裁判長)。
判決は、防衛大の学生間指導に伴う安全配慮義務を一般的には認めながら、防衛大において、いじめ行為の早期察知や、その再発防止につながる人的、物的体制は一定程度整備されており、安全配慮義務違反はなかったとした。しかも驚くべきことには、暴力や粗相ポイント制などが「伝統的なものとして」用いられ、「指導の名を借りて、暴力や行き過ぎた指導などに及ぶものが現れる危険性がある」と認めながら、その危険性は「抽象的に内在している」だけだとし、本件各行為は予見可能性、回避可能性がなく、安全配慮義務違反はなかったとしていることである。
この判決は、学生間指導の名の下で横行する防衛大内の深刻な人権侵害の実態を全く無視し、それを生み出し容認してきた防衛大・教官の責任を全面的に免除し、深刻な人権侵害状態を放置することにつながる、許しがたい不当判決である。このような判決がまかり通れば、どんな深刻な人権侵害状況が存在しても、防衛大や教官の責任は免除されてしまうことになりかねない。
原告の訴えを契機に裁判の中で明らかになった、防衛大に蔓延している人権侵害状況は深刻である。一年生の“不適切な行為”を「粗相ポイント」としてカウントし、その清算のために「食いシバキ」(乾いたカップ麺数個を食べさせたり、カルピスの原液やラー油の一気飲みなど)、「指令外出」(性風俗店での性行為の強要)、「飛ばし・台風」(机やロッカーをめちゃくちゃに荒らされる)、「ハイパー腕立て伏せ」、「空気椅子」など、理不尽な行為を強要される人権侵害が横行している。服務規律違反は2日に1件の頻度で起こり、私的制裁、刑法犯罪相当の懲戒処分も多発し、任官辞退者、「脱柵」者も少なくなく、自殺・自殺未遂、自傷行為も毎年のように生まれている。「ファイヤー」と呼ばれる罰ゲームで、原告が体毛にアルコールを吹きかけられ、ライターで火をつけられ裸でもがき苦しんでいるときでも、入ってきた教官は被害確認もしないまま「あまり騒ぐなよ」というだけで帰っていった。原告や母親がカウンセラーや教官に訴えても、真剣には取り合ってもらえなかった…など、裁判の中で明らかになった事実は、防衛大が学生の人権を守る安全配慮義務を怠り、学生間指導の異常な状況を放置していた実態を浮き彫りにしている。
このような深刻な人権侵害状況は、一刻も早く解消されなければならない。この状況が放置されれば、刻一刻と犠牲者が拡大することになる。
私たちはこの不当判決を厳しく批判するとともに、防衛大や自衛隊の中に広がる人権侵害状況を根絶するため、今後とも自衛隊のみなさんやそのご家族とも力を合わせ、奮闘する決意をここに表明するものである。